ひきかえせない・・・
ラジオから流れて来た歌声は、私の動きを止める程の力を持っていた。洗い立ての洗濯物をたたみながら、洗濯物の山に埋もれて遊ぶ子ども達と格闘していた時のこと。「子どもに長時間テレビを見せるのはよくない」という育児雑誌に従い、子ども達が活発に動く昼間は、音楽を流すかラジオをつけるかにしていた。そんな日常の中で、突然流れて来た歌声・・・。似ている・・・。でも・・・、そんな訳ないか・・・。誠吾の顔を思い浮かべながら、動きを止めたまま最後まで曲を聴き終えた。
「デビュー3周年を迎えたハラセイゴさんの『○○○・・・』をお送りしました・・・・・・・」
曲名は聞き取れなかった。でも、歌い手の名前はしっかりと・・・。私の思い過ごしではなかったのだ。プロデビューして3年も経っているというのに、私は‘ハラセイゴ’というミュージシャンの存在を全く知らなかった。結婚するまでは、好きなミュージシャンのコンサートには必ず行ったし、気になるCDは片っ端から買うかレンタルするかして、いつも手元に置いていた。それが、結婚して、子どもを産み育てている間に、自分の趣味をすっかり後回しにしていたのだ。私は、じっとしていられなくて、簡単に身支度を整えると、子ども達を連れて千里中央行きの地下鉄に乗った。右手でベビーカーを押しながら、左手で長女の手を引く。こんな姿で必死にCDを買いに行く私は、自分の中で『滑稽』以外の何ものでもなかった。何をしているんだろう・・・? 自問自答しながらも、足は前へ前へと進む。
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