憂鬱ノスタルジア
馬車の中でジゼルはレインの隣にちょこんと座り、窓からの景色を珍しそうに眺めていた
ジゼルの世界は鳥籠から見えるものだけだったから、初めてだらけ
まだ出会って2日だが、こうして自分を助けてくれたことに、ジゼルはレインに感謝していた
「ジゼル、ほら降りろ」
レインの声に慌てて馬車を降りてみると、小さなお店に着いた様子
「ここは………?」
「人間が営んでいる洋服屋だ。
好きなだけ服を選んでこい、コートも忘れるなよ?」
どうやら、ジゼルに合わせて人間が行く洋服屋に連れてきてくれたようだ
「で、でも……」
遠慮深いのか、慌てて首を左右に振るジゼルを見て、ふっと笑ったレインは店内に入って行く
ヴァンパイアが人間の店に来るはずもなく
一見すると人間とは区別がつかないため
なんの警戒もなく店員は暖かな笑顔を向ける
しかし、見たこともないジゼルの黒髪や瞳の色に少し戸惑っていた
「この子に似合う服を何着か見繕ってくれ
コートやネグリジェも何着か頼む」
店員は人間離れしたレインの美しい顔立ちに魅力されていたが、慌てて返事をして準備を始めた
「ほらジゼルは、どれが欲しい…?」
店員の疑惑の視線を感じ怖がっているのか
立ち尽くしているジゼルに尋ねると、小さくキョロキョロと当たりを見回したあと
優しいピンク色のワンピースを手に取った
「試着してこい」
「うん…ッ」
レインの言葉に恥ずかしそうに頷く姿を見れば、後は店員に任せればいいと考え
レインは店の外に出る
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