プラチナの誘惑



「そうです。彼女が企画して作ったんですよ。
なかなかいいでしょ?」

明るく野崎さんに説明する日和は、まるで自分の作品のように自慢げにしている。

誉められるなんて滅多にない私は、少し照れ臭い。

「あの布絵本…柚も気に入って、病室に置いてあるよ」

「ありがとうございます。
姉に子供が産まれた時に作ったのがきっかけで、商品化されたんです」

「そう…。
俺と柚も、赤ん坊に読んで聞かせるの楽しみにしてるんだ」

はは…と笑いながら、私たちに背を向けて。
窓から外を眺める野崎さんは寂しそうな気持ちを背中に漂わせながら立っていた。

かなり前だけど…奥さんの柚さんは交通事故に遭って…無理のできない身体になってしまったと聞いている。
気の遠くなるようなリハビリをこなして、野崎さんと結婚して。

もうすぐ赤ちゃんも産まれるらしい。
今日までその事実は知らなかった…。
マスコミから出てる情報にもその事には触れられていない。
まだ公表してないのかな…。

野崎さんから感じる感情は、あまり嬉しそうなものじゃないのも気になる…。
< 163 / 333 >

この作品をシェア

pagetop