プラチナの誘惑
「昴のにやける顔が見られないのが残念だけど、食べたら営業部に戻らなきゃ」

何事もなかったように食事を続ける逢坂さんをただ見つめる私に、

「だって、昴と付き合ってるんでしょ?
きっと昴喜んでるよ」

「あ…はい…。付き合ってると…多分」

ダイレクトに聞かれて、自信を持って昴との関係を肯定できない自分ってなんて情けないんだろうと気づくけれど。

昴が大切にしている優美さんを間近で感じた私には、力強く笑顔で答える事なんてできない。

小さな頃から抱えている
マイナスの感覚が久しぶりに蘇ってくる。
物心ついたばかりの幼い私が初めて得た感情

『諦め』

が懐かしく沸き上がる。

そう…。

どうしても敵わない、ずっと私の上にいて追いつけない相手。

姉さんと優美さんは似てるから…。

忘れていた想いが再び私を縛り付ける…。

「…彩ちゃん?」

「は、はい」

自分の感情の泉…それも落ちていくだけの悲しい泉をさ迷っていると、怪訝に思った逢坂さんの言葉が現実に呼び戻してくれた。

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