プラチナの誘惑



設計部にいるはずの昴が見当たらないな…とぼんやり考えながら、ようやく相模さんの席についた。

近づく途中で私に気がついたらしい相模さんは、周りにいた部下の人達との話を中断して私に会釈してくれた。

「何か急ぎか?」

優しく聞いてくれる相模さん。
相変わらず忙しそうだけれど。

「お願いがあって…。
あの、新しい布絵本が出来上がったんで…まだ見本ですけど、今日柚さんに渡していただきたくて…」

胸に抱いていた茶封筒をそっと相模さんに差し出すと、一瞬戸惑った表情を見せながら受け取って中から布絵本を取り出した。

軽く全体を見た後、怪訝そうな視線を私に向けて

「…これを…柚ちゃんに?」

「はい…。前回の絵本を気に入ってくれてると…この前野崎さんから聞いたので。
…今日、渡していただけませんか?」

たたみかけるように言葉をつなぐ私の気持ちを探るように…。
きっと家族のように大切に思っている柚さんに負担はないか…。
たくさんの感情が流れる相模さんの表情を、緊張と切なさの混じる気持ちで見ていた…。

「…今から直接持って行ってくれないか?」
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