プラチナの誘惑
「逢坂さん、あの…私いいです。自分で帰るんで…」

ぼそぼそとつぶやく私に怪訝そうな顔を向けた
逢坂さんは、タクシーが通るのを気にしながら

「…遠慮しなくていいのに」

「…いえ…」

昴が来る。

それがなかなか言えない
自分がもどかしいけれど、昴の事を知られたくないって思う焦りだけがあふれてきて何も言えなくて。

「…迎え…くるんで…」

それだけをつぶやいた。

あら?

と戸惑った顔を見せた逢坂さんは、予想してなかったに違いない私の言葉
を聞いたみたいな、それでいていたずら気味に笑った。

「…ま、そういう人いても不思議じゃないか。
でも、一人でここで待つのはあまりおすすめできないから一緒に待ってる」

タクシーを探す事をやめて、さっさと私の隣に並ぶと。

「彩ちゃんを気にしてる男子多いのに、ほんとラッキーな男ね」

「あ…男って言いました…?」

「え?違うの?」

「いえ…そう…ですけど」

歯切れのいい逢坂さんの問いにごまかしはきかなくて。

俯く私の顔はきっと赤いはず…。
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