おにぎり丼。
そこまで言ったところで、村松さんの携帯が鳴りだした。

村松さんは私に断ることなく、素早い動作で電話に出た。


「もしもし」

「あぁ」

「わかった。すぐ行く」


電話を切ると、村松さんは席を立った。


「ゴキブリが家に出たらしい。悪いけどお開きにしよう」


「あ。はい」


「うち、父親が単身赴任で、母と妹しか家にいないんだ。虫系は俺しか倒せなくて」


「大変ですね」


「なんかいきなりでごめんね。今度ゆっくり飲もう」


村松さんは居酒屋を出ると、店の前にとめてあった自転車にまたがって、あっという間に遠くに消えていった。


ちょって慌ただしい最後だったが、いつもの、ありきたりの飲み会だった。

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