【短】雪の贈りもの
彼女は足早に過ぎていく人の中で、なぜだか立ち止まり、空を見上げていた。

舞い降りるものを慈しむように。

愛おしむように。

初めてガラスを通さずに見た彼女は、透明感がさらに増し、その大きな瞳は生まれたての水晶のようにキラキラと輝いていていた。

そして、降りて来る我が子を受け止めるように、開いた手の上に雪たちを乗せると、大事そうにその手のひらを握っていた。

僕は瞬きも忘れて、彼女の姿に見入ってしまったんだ。

そして、無性に彼女を『書きたい』と思った。

今のこの光景を、彼女を、感じた僕の気持ちを、文章にしたいと思ったんだ。

忘れかけていた、見つめる力を、彼女が思い出させてくれた気がした。

僕はフードを外すと、空を見上げた。

さっきまで煩わしく感じていた雪たち。

けれどよく見つめると、それは空からの贈り物でもあり、彼女のくれた、光でもあり……。

1度は夢を見た作家人生。書けない自分に苛立って諦めていた。

けれど、書けなくなったわけではなかったんだ。

見つめる力を使おうとしなかっただけ。

ひとつひとつを慈しみ、見つめ、それらに言葉をプレゼントするという大切な事を忘れていた。

彼女が、教えてくれた。


< 26 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop