【短】雪の贈りもの
過ぎ行く人の波の中で、私と彼の間に流れる時間だけが止まってしまったように感じる。

止めてしまえたらいいのに、とも思った。

なぜだか、冷たい刃さえも感じるこの世界で、彼の周りだけは暖かく照らされているようで。

口元に白く浮かぶ彼の息が、優しく微笑んでいるみたい。

私は、そこから目が離せなくなると同時に、肩の力が“ふっ”と抜ける感覚を覚えた。

そうしたら、ヒラヒラ……と。

彼の耳を通して、雪の音が聴こえた気がしたんだ。



名前も知らない、ただその“とき”が重なっただけの彼と私。

次、いつ重なるかもわからないと言うのに。

もう、2度と重なる事はないかもしれないのに。

──トクンッ。

体の中心で、もう1人の私が扉をノックする。

『きっと、また、会える』

そんな気がした──……。







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