【短】雪の贈りもの
その“とき”は、私の直感を裏切らずにやって来た。

それも、同日の夕刻──。



駅前の『*CRISTAL*』

そこが私の働く店で。

綺麗に着飾ったケーキを眺めながら、ショーケースのガラスを磨いていた時、フワッと一瞬冷たい風を感じたんだ。

見上げると、目の前の自動ドアを抜け、店内に入って来た男性が1人、ケーキを覗き込んでいた。

彼だった。

──ドクンッ。

胸の中で、朝よりも強く感じるノック。

彼はしばらくケーキの並ぶ棚を眺めていたかと思うと、首を傾げ、視線を私に向けた。

『1番人気はどれですか?』

彼の口が、そう動いた。

私は咄嗟に“ルミエール”を指差した。

それは冬限定の白いプリン。

lumiere──フランス語で、“光”という意味。

実際に人気なのは、とろける食感の“クレームブリュレ”や、甘さを抑えた“ガトーショコラ”だったりするのだけれど。

初雪が私と彼を出会わせてくれたとするなら、今は雪をイメージした真っ白なプリンが、彼を運んで来てくれたような気がして。

彼に“ルミエール”を渡したかった。


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