ブライト・ストーン~青き守りの石~【カラー挿絵あり】
夢と言うには、あまりにリアルなあの鬼の息遣い。
生臭い匂い。
その一つ一つを、まだ鮮明に思い出せる。
それに――。
茜は、あの母の顔をした『鬼女』を思い出して、ぶるっと身震いをした。
身近な人間が、異形のものに変わる恐怖。
細胞の一つ一つが粟立つようなあんな感覚は、生まれて初めて体験するものだった。
茜にとっては、見るからに『鬼』と言う最初の赤鬼よりも、あの『鬼女』の方がよほど怖かったのだ。
「じゃぁ、早く降りて来いよ」
そう言って部屋を出て行こうとする敬悟に、茜は慌ててくっ付いて行く。
「何だ? 着替えは?」
「う、うん……。後にする」
ちらっと、昨日赤鬼が立っていた窓際に目をやる。
いつものように、オレンジのチェック柄のカーテンが静かに窓を覆い隠している。
そこには鬼のいた痕跡は何も見い出せない。
でも、例え夢だとしても今は、この部屋に一人でいたくはなかった。