満ち足りない月
廊下の雑巾掛けは好きだ。
埃が綺麗に拭き取られるのが分かるし、やり終わった後の開放感は何とも言えない。
「よーし」
セシルは両袖をめくるとバケツに入れてある雑巾を絞った。
本当にどうしてこんな楽しい事を皆やらせてくれなかったのかしら。
地理や歴史、計算や語学の勉強や礼儀、ダンスの稽古より本当に楽しいのに。
『お嬢様にやらせるわけにはいきません。これは汚くて疲れる仕事ですので、お嬢様の手が汚れてはいけませんので』
確かに疲れるし、汚れる。
けれどそれはいけない事なの?
『それに……私等が怒られますので』
――あの人達にとって、私は一体何だったのかしら。
セシルは丁寧に細長い廊下を拭き始めた。