満ち足りない月
十メートルほど拭き終わった頃にセシルはある事に気付いた。
「ん?」
綺麗に拭いてきたはずの廊下に黒い転々が付いている。
セシルは嫌な予感がして、その黒い足跡を目で辿って行った。
―――その先にいたのは一匹の黒猫だった。
毛並みがよく、余分な脂肪が一切ない、すらっとした体。
黄金色の目は鋭く、黒に生えて、余計にその猫のしなやかで優雅な雰囲気を出していた。
「もう、せっかく拭いたのに廊下が汚れちゃったじゃない」
セシルは低い声を出すと、怒りをあらわにした。
猫はそれを察したのか、冷ややかな目でセシルを見つめると、また足跡を付けながら早足で歩き、廊下の先にある窓へと飛び乗った。
そしてそのまま窓の外へと消えて行ってしまった。