タレントアビリティ
「この間は、どうもお世話になりました」
「ああ、あれね。……お互い巻き込まれたから、そういうのは違うと思うけど」
「そうかもしれませんけど、こういうのはきちんと伝えておくのが私の流儀ですから」
「ふーん」

 これといって話すような話題は無い。まあ、無理もないような気がするが。
 しかし添は風音の登場にやや曇り空だった。昼休みに限り、基本的に屋上は添だけの場所であって、だから今まで誰もここにはこなかった。風音の噂名は「放課後の歌姫」であり、なら放課後に現れろよと添は思う。

「……あの、何か?」
「いやいや、何も無いよ」
「そうですか……。あっ、私、コンクールの出場が、正式に決まりました」
「そりゃあ、よかった」
「今回は予選からきちんとなんですよね。今まではシードみたいな感じで、それでですね……」

 どうやら歌姫の中で、添は「話を聞いてくれる人」と認定されたらしい。されてしまった、らしい。
 いい迷惑だよ、と口の中で毒づいた。他人の才能から離れるためにわざわざこの場所を陣取ったというのに、真横に才能の持ち主がいたら無意味。しかも欠落を乗り越えたばっかりの、レベルが高い才能の人。

「あ、そうだ風音さん」
「はい?」
「クレープ食べますか? 食べ切れなくてどうしようかなって思ってたんですけど……」
「私に、ですか?」
「うん、やるよ」

 能恵とは反対側に置いていたタッパーからクレープを突き出す。やや変な香りを纏ったそれを風音は手に取って、ジト目で添を見た。
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