タレントアビリティ
 ジェットコースターは安全だから楽しい。よく分かった。
 焼けたアスファルトの上で腰を抜かしたまま引きずられながら、添はそんな場違いな事を思った。安全って大切だ。

「……あのー」
「ああ何も言わなくて結構だよ添君。君に拒否権などこれっぽっちも無いのだから無駄に暴れてほしくないんだが」
「じゃなくって、僕はいまからどうなるんですか?」
「こちらの状況から掴んで貰おうかな。ちなみにあっちゃんは何も関わっていないよ。僕は君に用がある。そうだな、話は車で続けようか」

 ずるずると引きずりながら要は言う。間違いなく怒っている。そう直感出来た。
 駐車場に止まっているのはごっつい黒塗りベンツで、要はさっさと鍵を開けて助手席に添を放り込んで運転席に乗り込んで、いきなりエンジンを入れた。車はさっさと学校敷地内を出て大通りに出て、やっぱり高速道路に乗ってしまった。

「……まずは謝ろうか。いきなり巻き込んでしまって済まないね添君。しかし普通に言ったところで君が承諾するとは思えなかったし、間違いなくあっちゃんが関わる。それは避けたくて」
「能恵さんに知られちゃまずいんですか?」
「まずくはない。ただ、面倒なだけ。あっちゃんはいい人だけど、僕が今回用があるのは君なんだよ、添君」

 京都方面へと向かうベンツのスピードはあっという間に130キロを越えた。交通法に触れながら、周りの車を寄せ付けないようにしながら車は進む。

「僕と会った翌日に、あっちゃんと明洲のアトリエに行ったかい?」
「行きましたよ。もう色々と驚きましたけど」
「彼は一切喋らない。それは分かっているだろう。昔からそうだったし、あっちゃんが僕に明洲を紹介した時から今までずっと、明洲のコミュニケーション手段はスケブだったんだ。だからこその彼の作品。会話へのエネルギーも何もかもを作品にぶつけて、ウインドノベルの看板作家として、僕と赤羽出版を支えていてくれた。あっちゃんが駆け出しの恩人なら、明洲は飛躍の恩人かな」
「……そうなんですか」
「そうだよ。で、だ」

 右手でハンドルを握ったまま、左手でポケットから飴を取り出して口に放り込む要。スピードメーターは150キロまで上がっていく。
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