タレントアビリティ
「明洲賞をプランニングしたんだが、それには理由がある。あまりよくない理由なんだが……、それに関して君が関わっているから、だから今日は来てもらう」
「僕が関わった、ですか?」
「そういう事だ。あっちゃんが君を気に入る理由というのはそこにあって、ああだから連れて来たのかと納得したよ。話なら色々聞いたからね。あの世界的に有名な音楽家の愛娘の自信不足を叩き直した、と」
「……何で色々話すかなー、能恵さんはさー」
「いいじゃないか。それだけ信頼されているというか、気に入られているというか。あっちゃんをも引き付ける君は、そうだな、かなりの逸材なのかもしれないよ」
「やめて下さい……」

 要から目を逸らして窓の外を眺める。景色は次から次へと流れ、しかしとなりの要は流れない。
 自分がいったい明洲に何をしたのだろうか。ただ話しただけでしかなく、余計な事をした覚えはない。逆にあの人の独自性に驚き作家の奇妙さを知った。明洲がおかしすぎるというのもあるのだけれど。

「まあ、それはいい……。で、本題に入らせて貰うよ。今から君にはもう一度明洲に会って貰うんだけれど、君があいつに与えた影響は、これが案外迷惑なものみたいで。ひょっとしたら君じゃなくてあっちゃんの影響かもしれないけど、あっちゃんを関わらせると面倒だから」
「何かした覚えなんて無いんですけど」
「だろうね。けれどあいつは君から何かを感じ取り、奇天烈な行動を取った。まさか明洲がああいう風に動いて筆を折るだなんて、思ってもなかったんだけれどね。ああ、あっちゃんには絶対言うなよ? 勝手に感づかれるだろうけど、それはきちんと見越して動くように。そうだな、見つかったら君の貞操は僕のものだ」
「やめてください……。で、筆を折ったって、どういう事ですか?」
「そのままの意味だ」

 アクセルをさらに踏み込む。心なしか横顔が歪んで、今にも泣きそうな表情が浮かんだように見えた。気のせいにも見えたが、それに間違いは無い。
 能恵の話を思い出す。やることは違えど要と共に赤羽出版を成長させた大事なパートナー、明洲。彼に異変が起こっているのなら、要が悲しむ理由としては十分だった。
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