タレントアビリティ
「もしもし」
『うまくいってるみたいね、そえ。この会話は聞かれてない?』
「うまくやってるのか分かりませんけど、会話は聞かれてませんね」
『よぉし。さてと、そえ。今から私も動くからよろしく。とりあえず今からのあなたの仕事は、風音ちゃん連れて学校まで戻りなさい』
「はい。えっと、あ……、純白さんはどうするつもりですか?」
『どうするつもりも無い。ただ風音ちゃんには、また音楽を取り戻してもらう。ふふ、拍律の家の娘さんだもの、私が放置するはずないでしょう? じゃあ、学校に戻りなさい。あー、風音ちゃんに代わって?』
「……相変わらず掴み所の無い人ですよね」
『早く』

 そう急かされて風音に取り次ぐ。風音が動揺している隙に、足元にあったバイオリンケースを何となしに開けてみた。もちろん、風音には気付かれないように。
 愕然とする。ぴたりと思考が停止した後で、何も見なかったかのようにもう一度閉じる。これなら確かに、能恵さんが動く。それほどの才能の持ち主ということなのだろうか、拍律風音という存在は。

「添さん」
「学校に、向かえ、だそうで」
「らしいな。んで? 風音さんは何を言われた?」
「『あなたの音楽の才能を見込んで、あなたの母校を人質にする』と……」
「はあ……。よし分かった学校戻ろう。下手に刺激してしまうと本気でやり兼ねん……」
「添さんは、何と言われたんですか?」
「爆発とウイルスと殺戮と、どれがいいですか、だとさ」
「……タクシー!」

 思い切り手を引かれる。すぐにタクシーに乗り込み、風音が学校へ行くようにと告げた。添はそれを黙って見る。バイオリンケースが、2人の間で揺れていた。
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