冬のロマンス
「・・・撮らなくていいよっ。大体お前ポートレート苦手だって言ってたじゃないか」
 以前の会話だ。『ポートレートが苦手だから沙成で練習させて』と哲平は、無理矢理沙成をモデルにしたのだ。無理矢理とはいっても、ウエストの店内で仕事をしている姿を彼が勝手に撮るといった手法だったけど。そう言えば出来上がったものは見せてもらっていない。出来が悪かったから持ってこなかったのだろうか。
 「うん。今でも得意じゃないけどさ、でも、沙成だけは撮りたくなるんだよ」
「恥ずかしいから、もういやだ」
「そんなこと言わずに撮らせてよ」
鋭いはずの瞳を細め、哲平は子供をあやすように笑った。そして脇においてあったカバンから、一枚のパネルを取り出した。
 「・・・良く撮れてたからさ。クリスマスプレゼントに自分の写真なんて嫌かもしれないけど、貰ってよ」
渡されたのは、満面でこそないものの、幸せそうに笑う自分のポートレートだった。焦点をしぼってあるため背景は良く分からないが、恐らくウエストで撮ったものだろう。哲平にカメラを向けられたのは、初対面の時とあの練習の時くらいしかないから。
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