roulette・1
『貴方にはまだ、その“資格”がないのですね』

あれはどういう意味だったのか。

そして、今の翁の言葉は?


戸惑う私に、翁は穏やかな声で語りかけてくる。

「さあ、お嬢さん。願いを言いなさい。私が何でも叶えて差し上げよう」

小さく首を傾げて訝しむ私に、翁は優しい笑みでゆっくりと頷いてみせた。

白い息と降り続く雪で、どんどん真っ白になっていく世界。

そこで、どんどん冷たくなっていく彼を見下ろし、ギュッとコートの裾を握り締めた。そしてゆっくりと翁へ視線を移す。

何でも願いを叶える。

そんなこと……あるわけがない。在り得ない。

そう思いながらも、少しずつ小さな期待が膨らみ始めていた。ゴクリと唾を飲み込み、細く息を吐き出す。

「何でも……叶えられるの?」

「もちろん、何でもです」

翁は答えた。

「……助けて」

半信半疑のままそう呟くと、翁の優しい瞳が怪しく輝いた。

「承りました」

翁は丁寧にお辞儀をしてゆっくり身体を起こすと、パチンと指を鳴らした。途端に視界がぐにゃりと揺れ、足元も覚束なくなった。

何が起きたのか分からない。

柔らかなクッションに身を沈める感覚を最後に、私は意識を失った。




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