欠陥ドール


カナンがカナンじゃないみたいで、怖くて。見たくなくて。


目を閉じたあたしの首筋にピリッと吸い上げられるような刺激。


「……っ」


うっすらと目を開ければ、カナンの柔らかい髪がすぐ近くにあって、肌を撫でていた。


「な、なにしたの…?」


「おしおき」


あたしから離れたカナンが薄い笑いを浮かべた。


「これ、リタ様には見せない方がいいかもね」


スルリと首筋をなぞるカナンの指から体温が伝わってくる。なんで、なんか嫌な言い方。


「俺のこと軽蔑する?」


カナンの指が首筋から髪に移動して、くるくると巻き付けていく感覚が、妙にくすぐったかった。


あたしはカナンに何も言い返せなかった。正直、カナンが無理矢理こんなことするなんて思わなかった。


だけど、これくらいでカナンのこと、突き放せない。それくらい、カナンだって分かってるくせに。


「……そんな顔すんなよ」

そんな顔って、今あたしがどんな顔してるのかなんて分かんないよ。


「俺は、お前のことを守らなきゃならないから」


また、カナンの顔が冷たくなっていく。


「俺はお前の為にお前を傷付けるから」
< 43 / 60 >

この作品をシェア

pagetop