欠陥ドール
名残惜しそうに歩き出すリタは、ふと思いだしたように振り返ってまた戻ってくる。
「今日、色々遅くなるけど、夜いつもの場所に来いよ。いいな?」
コソッと小声で耳打ちすると、「もちろんみんなには内緒で」と付け加えてリタは去っていった。
リタの背中が小さくなって見えなくなるまで目で追った。
胸が、いたい。
目の奥がジンとして、何かが込み上げてきそうになる。なんだろう、この感じ。
泣きそう、ってこういう事を言うのかな。
でも、涙なんてもの、あたしにもあるのかな。そんなもの出たら、それこそあたしは欠陥品だ。
リタの傍にいられなくなるかもしれない。
そんなの、絶対に嫌。
嫌。
どうしようもない、この感情というものをあたしは気付かないふりをした。
きっと知らない方がいい。