雪に埋もれた境界線
「私は石川陸と申します。現在は居酒屋でバイトをしながら、将来の仕事を考え中です。宜しくお願いします」


　そこまでは順番にそれぞれ自己紹介を終えたのだが、汚らしい格好をしている中年の男性が一人だけ、なかなか自己紹介もせず欠伸をしていた。

　
「最後はあなたですよ。自己紹介お願いします」


　清掃員の木梨が声をかけると、男は頭を掻き毟りながら自己紹介を始めた。


「あぁ、俺は高田順平。宜しく」


　それだけ云うと今度は鼻毛を指で摘み、顔をしかめながら抜いていた。

　抜いた鼻毛は指でどこかに弾き、一人の世界を繰り広げているのだ。

　汚れた緑色のトレーナーに、黒ずんだジーンズを履き、リラックスしている。


「うわ〜、あいつ汚いね」


　久代がすっぱいような表情をし、小声で陸に云った。

　他の者達も同じことを思っているのだろう。誰しも顔をしかめたり、高田を見ないように視線を逸らしていた。


< 10 / 95 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop