雪に埋もれた境界線
「ところで、私達の中からどうやって屋敷と財産の半分を受け取る人を決めるんだろうね」


 清掃員の木梨が誰にともなく問うと、スーパーのパートをしている相馬が答えた。


「試験か何かだったら、私はすぐ失格ね。勉強は出来る方じゃなかったから」


 相馬は口に手をあてながら、細い目を更に細くして苦笑した。


「私だって試験なんて、学生の時以来だ。それじゃあすぐ失格だろうなぁ」


 木梨も低い声でそう云うと、相馬と同じように苦笑した。


「え〜、試験だったら私もヤバイよ。陸はどう?」


 久代は、呼び捨てで陸の名を呼んだ。周りから普段名前で呼ばれていた陸は特に悪い気もせず、少し考えてから答えた。


「ん〜、大学の時以来、勉強なんてしてないから、ダメかもしれないな」


「私も同じだよ。会社で試験なんてないしね」


 陸の言葉を聞いていた会社員の座間も、肩を竦めながらそう云った。


「試験じゃなくて、早食いとか大食い大会なら、俺に決まりだろうけどな」


 一人の世界に入っていた高田も、他の者達の話しを聞いていたのだろう。黄ばんだ歯を見せ、薄気味悪い笑みを浮かべながらそう云ったのである。

 しばらく、そんな高田もちょこちょこと会話に加わりながら、六人の候補者達は少しずつ打ち解けていたのである。そこで分かったことだが、候補者は、全員同じA県内に在住だということだった。

 黒岩玄蔵氏はランダムで候補者を選ぶ際、同じ県内に限定したということか。

 あっという間に時間は過ぎ、夕食を知らせるために執事の磯崎が扉をノックをし入ってきた。


「皆様、そろそろ夕食の時間ですので私の後に続いて食堂までお越し下さいませ」


 磯崎は相変わらずの無表情でそう告げると、再び応接間の扉を開いた。

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