雪に埋もれた境界線
 やがて使用人の鶴岡と半田によって料理が運ばれてくると、食堂はざわめいた。

 料理はフランス料理であり、高級ワインも用意されたのである。


「超立派じゃん。無料だしラッキー」


「これはすごい。普段の生活じゃあ考えられない」


 久代と木梨は素直に歓喜の声を上げた。

 真っ先に高田が料理に手を付け、ガツガツとまるで今まで何も食べてなかったかのように、音を立てながら下品に食べていた。

 その姿を久代が一瞥すると、陸に小声で話しかけてきた。


「あの人マジ気持ち悪いんだけどぉ。それにしてもすごい料理だよね。ご主人様って超気前よくない?」


「そうだね。交通費も二十万だし」


 陸は手を止め、改めて料理やらワインを見ながら答えた。


「このワイン相当高いですよ。私の給料じゃなかなか買えないなぁ」


「そうよね、私のパート代じゃもっと買えないわ」


 会社員の座間と、パートの相馬は顔を見合わせ苦笑した。

 誰かのワインがなくなると、使用人の鶴岡が上品に注いで回り、空いた皿を片付けるのは小柄な半田で、二人の使用人は給仕をせっせとこなしていた。その動きにはまるで無駄がなく、やはりロボットのようである。

 食事が済むと鶴岡がデザートを運んできた。一人一人に配り終えると、無表情のまま食堂の隅に立ったのである。

 何だ、この屋敷の使用人は、人間らしくないよな。そう思いながらも、目の前に置かれたデザートに視線を向けると食べ始めた。デザートも高級で、どれも美味である。他の候補者達もデザートを食し、残す者は一人もいなかった。

 食べ終えると、それぞれ会話も弾んだのだ。
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