雪に埋もれた境界線
「訊かれたくないことだったんですかね」


 座間が木梨に小さい声で云うと、木梨は「さぁ」というふうに肩を竦めた。

 その時、突然食堂の扉がバタンと勢いよく開かれ、執事の磯崎が飛び込んできた。
 候補者四人とメイドの二人が一斉に磯崎に注目すると、磯崎は表情を変えることなく話し始めたのである。


「大変でございます。相馬貴子さんがお亡くなりになりました」


 候補者達は驚愕し、一番最初に声を出したのは木梨だった。


「そ、それはどういうことですか? 相馬さんは一体」


「相馬貴子さんは、応接間のソファとソファの間で倒れておられました。脈を確かめたのですが、脈はすでになく、瞳孔も開き、頭からは出血をして、すぐ側には応接間の灰皿が血だらけで転がっていたのでございます」


 何だよ、それって殺人じゃないのか。磯崎は無表情で淡々と説明しているけど、間違いなく殺人事件だ。
 陸は立ち上がると、なるべく平静を保つよう心がけた。


「磯崎さん、警察に連絡は?」


「いいえ、出来ません」


 磯崎は陸を鋭い目で見ると、さも当たり前のことのように答えたので、陸は少し苛立ちながら語気を強めて訊いた。


「どうしてですか? これは殺人事件ですよ」


「この屋敷の電話線は何者かに切られておりました。そして、皆様から預かっておりました携帯電話やノートパソコンも、全て紛失していたのです」


 残っている候補者達は大きく目を見開き、更に驚愕すると、磯崎は続けた。


「記録的な大雪が降ったことも手伝い、この屋敷に続く道の途中で崖崩れが発生したと、料理人の梅田が今朝申しておりました。梅田は食材の買い足しに行こうと車で向かい、道が通れなくなっていたので、屋敷に引き返してきたというのです。そして、この屋敷は孤立状態であり、皆様はもうお分かりかもしれませんが、相馬貴子さんを殺した犯人というのは、今この屋敷にいる人間の中の誰かとしか考えられないのでございます」


「い、磯崎さん。高田さんは昨夜帰られたんですよね。どうやって帰ったのですか?」


 木梨が青い顔をしながら質問すると、磯崎は淡々と答えた。
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