雪に埋もれた境界線
「半田さん、夕食を運んだ時ベルトはどうでしたか? 覚えておられませんか?」


「確か、今みたいにベルトがズボンの穴を通っていないということはなかったのではないかと思います。夕食をお持ちした時にベッドから起き上がった際、今のようにベルトが不自然な位置になかったですから」


 半田が云うように、今の木梨はベルトをズボンの穴に通していないため、ズボンの上からベルトがずれ、ベルトの止め金部分など後ろに位置しており、明らかに不自然なのである。


「証拠として木梨さんのベルトを警察に提出すれば、久代ちゃんと梅田さんの首の痣と一致することでしょうね。そして木梨さん、久代ちゃんを自殺に見せかけ殺した後、さも自分は久代ちゃんに殺されかけたと思わせるために、久代ちゃんのボストンバッグから化粧品の瓶を取り出し、部屋に持ち帰ると、それでご自分の頭を殴ったのですよね? 致命傷にならなくて済んだのは加減して殴ったからでしょう? そしていかにも自分は被害者だと印象付けた。違いますか?」


 木梨はうなだれ、やっと観念したようだった。そして、陸の推理を聞き、満足気な表情を止められない磯崎は、まるで今までの磯崎とは別人のように見える。
 

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