ストーカークラブ
 八個も年上のはずなのに、美奈子は子供っぽく、すこぶる話し好きで、長話しなのだ。

 それとは裏腹に、美奈子の素性は謎だらけだった。というのは、美奈子が話す事は毎回違うのである。

 私はバツ一なの〜と言ってみたり、結婚した事ないから憧れると言ってみたり。毎回ころころと言ってることが変わる。要は嘘つきなのだ。おそらく本人も、どれが本当でどれが嘘なのか分からなくなっているんだろう。付き合ってから、美奈子に虚言癖がある事を知った。

 しかもデートの最中は必ず二、三回携帯が鳴り、その度にしばらく誰かと会話している。『ごめんね。私彼氏居るから付き合えないんだ』だの、わざと信太の前で大きな声で言う。さも私はもてるんです〜っていう、みえみえの態度。

 そんなに毎回デートの度に、男から告白電話があるのは変だなと思っていた俺は、美奈子が電話してる最中に、ディスプレイを覗く機会を窺っていた。

 そのチャンスはすぐに巡ってきたのだった。

 たまたま小さい子供が走ってきて、美奈子にぶつかった時、美奈子が携帯を耳から離した瞬間、ディスプレイが見えた。ディスプレイには、アラームを止めた状態の画面が表示されていて、通話中じゃなかったのだ。その後も『今ね、子供とぶつかっちゃったし、彼氏と一緒だからごめんね』と言って電話を切った。正確には電話を切る所まで芝居を続けたのである。

 俺はその時、笑いを堪えるのに必死で、声まで上ずってしまったが、美奈子に虚言癖がある事に確信を持った。

 そういう事もあり、俺は卒業したら美奈子とは別れるつもりでいる。卒業まではもう長くないのだから。

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