アリスズ
☆
都の北側は、農園になっていた。
農園まで込みで、外壁に囲まれているのだ。
「元々は、籠城用の畑だよ。いまは、どこも攻めてはこないから、都の人間が食べるための野菜が主だけどね」
中暑季地帯である。
北側でも、十分な日照と気温が約束されている。
灌漑施設にも、きちんと手が入れてあった。
「この内畑は国の持ち物だよ。イデアメリトスの御方の持ち物、と言ったらいいかな。管理は農林府がやっているけど、農林府の畑はもっと向こうにある」
ネイディの言葉など、景子にはもう聞こえていなかった。
しゃがみこんで、土に触っていたのだ。
悪くない。
いろんな野菜を作っているおかげか、土はそこまで痩せてはいなかった。
改善の余地はあるが、優先順位からすれば後回しにしても大丈夫だろう。
土を掘り返していると、細長いミミズのような生き物が顔を出す。
あっという間に、地中に潜って行ってしまったが。
にこにこ。
景子は、顔を緩ませながら、それを見送る。
土に味方してくれる生き物に違いない。
次に、野菜の葉や茎を見る。
見たことのない植物も、そこにはたくさんあるのだ。
食べたこともない。
表を見る、裏を見る、根っこを見る、匂いを嗅ぐ、一枚失敬して噛んでみる。
苦い。
「ハハハハ…それはまだ成長途中だぞ。花が咲いた後に実がなる。それがうまいがな」
顔をしかめている景子の後ろで、笑い声が上がった。
豪快な笑い声だ。
驚いて振り返ると、そこにネイディはいなかった。
代わりに立っていたのは、髪を長く長く編み、もみあげから続く顎髭をたくわえた男性。
男盛りの渋若い気を、太陽の下で惜しみなく放っている。
アディマと同人種の、肌と瞳をしていた。
この町に住む半分が、そうなのだから珍しくはないだろう。
髪が長いので偉い人のようだが、畑に詳しい。
農林府の役人だろうか。
「食べごろの同じ野菜なら、向こうの畑にある…行ってみるかな?」
「はい!」
こんな良いお誘いを、景子が断るはずなどなかった。
都の北側は、農園になっていた。
農園まで込みで、外壁に囲まれているのだ。
「元々は、籠城用の畑だよ。いまは、どこも攻めてはこないから、都の人間が食べるための野菜が主だけどね」
中暑季地帯である。
北側でも、十分な日照と気温が約束されている。
灌漑施設にも、きちんと手が入れてあった。
「この内畑は国の持ち物だよ。イデアメリトスの御方の持ち物、と言ったらいいかな。管理は農林府がやっているけど、農林府の畑はもっと向こうにある」
ネイディの言葉など、景子にはもう聞こえていなかった。
しゃがみこんで、土に触っていたのだ。
悪くない。
いろんな野菜を作っているおかげか、土はそこまで痩せてはいなかった。
改善の余地はあるが、優先順位からすれば後回しにしても大丈夫だろう。
土を掘り返していると、細長いミミズのような生き物が顔を出す。
あっという間に、地中に潜って行ってしまったが。
にこにこ。
景子は、顔を緩ませながら、それを見送る。
土に味方してくれる生き物に違いない。
次に、野菜の葉や茎を見る。
見たことのない植物も、そこにはたくさんあるのだ。
食べたこともない。
表を見る、裏を見る、根っこを見る、匂いを嗅ぐ、一枚失敬して噛んでみる。
苦い。
「ハハハハ…それはまだ成長途中だぞ。花が咲いた後に実がなる。それがうまいがな」
顔をしかめている景子の後ろで、笑い声が上がった。
豪快な笑い声だ。
驚いて振り返ると、そこにネイディはいなかった。
代わりに立っていたのは、髪を長く長く編み、もみあげから続く顎髭をたくわえた男性。
男盛りの渋若い気を、太陽の下で惜しみなく放っている。
アディマと同人種の、肌と瞳をしていた。
この町に住む半分が、そうなのだから珍しくはないだろう。
髪が長いので偉い人のようだが、畑に詳しい。
農林府の役人だろうか。
「食べごろの同じ野菜なら、向こうの畑にある…行ってみるかな?」
「はい!」
こんな良いお誘いを、景子が断るはずなどなかった。