アリスズ

 半年。

 半年近くが、飛ぶように過ぎたことを、景子はその時に知ったのだ。

 畑を回り、学校へ行き。

 ら、来月。

 来月には、アディマたちが都に帰ってくる。

 やったことは、とりあえず連作障害の対処法をまとめた文書を、ネイディに習いながら何とかこさえたこと。

 景子は、過去の生産量の推移を表すために、無意識に棒グラフを作成してしまい、ネイディに『へんてこだけど、分かりやすいな』と笑われてしまった。

 短大時代のレポートや、OL時代の仕事のせいで、変な技がしみついてしまっているのだ。

 あの書類、ちゃんと農村に回るといいなあ。

 一体、いまどこの部署に回されているのか、謎なままなのだ。

 もしかしたら、ここのウラナリ上司の机の下に落ちて、放置されているかもしれない。

 結局、まだ何の成果も上げられていない、というのが現状だった。

 や、やばい。

 落第の危機にある学生のような気分を、景子は味わっていた。

 このままでは、せっかくリサーの父親まで引っ張り出して推薦してもらったのに、役に立っていないではないか。

 農林府に勤めてみないかと、最初にアディマに勧められた。

 彼は、二十歳にならなければ都に戻れないため、先に景子だけを行かせようとしたのだ。

 最初は、一人で行く不安はあった。

 だが、梅と約束したのだ。

 足場を作って、そこに彼女を呼ぶと。

 農林府という役所は、景子にとってはその足場とやらを踏み固めるに、相応しいところに思えた。

 だから、こうして一人で先に入って働いていたのである。

 なのに。

 いまひとつ、うだつが上がっていないではないか。

 リサーの父親や、アディマの父親の威光にぶら下がっているだけである。

 あわわ。

 実験は、いろいろ行っている。

 枯れ草や石材、川の貝の殻に堆肥と、農林府の実験用の畑にまいて、土の様子をみているが、それぞれ結果が出るまで時間がかかるのだ。

 二二が四、二三が六。

 つい、九九を頭の中で詠唱し始めてしまったが──ただの現実逃避だった。
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