アリスズ
☆
都が、浮かれ始めていた。
卒業間近の学校へ向かう道の途中、景子は首をひねる。
「ねぇ、シェロー…なんかあるの?」
隣を歩く、初等科の子供に声をかけた。
「ねーちゃん、何にも知らねぇのな」
一度顔をしかめた後、シェローはあきれた声を出す。
う、すみません。
「来月入ったらすぐ、イデアメリトスの祭りがあるんだぜ」
30年ぶりなんだってさ。
へぇへぇ。
説明に、景子は頷いた。
そうか、お祭りか。
それなら、町の人が浮かれる気持ちも、分からないでもない。
「あっ、でも、祭りがあるっていうのは、本当は言っちゃダメなんだぜ」
なのに。
慌ててシェローは、周囲を見た。
自分の言葉が、他の誰にも聞かれていないか心配したのだろう。
「なあに、それ…変なの」
祭りがあるのに、祭りがあると言ってはいけない、と。
「うーん、俺もよくわかんないんだけど、かーちゃんがそう言うんだ。みんな知ってなきゃいけないけど、おおっぴらに言っちゃいけないって」
それで、景子に祭りの話が入ってこなかったのか。
おもしろそうなお祭りだな。
彼女は──死ぬほど単純な生き物だった。
そして。
事態が、そんなに単純ではないことを、職場で知ることになる。
「ネイディ…言っちゃいけないお祭りって知ってる?」
もうすぐあるらしいんだけど。
景子が、職場の仲間に小さい声で問いかけると。
彼は、がくーっと肩を落としたのだ。
「ちょ…イデアメリトスの御方と付き合いあるくせに、そんなことも知らないのか」
周囲をはばかるように、ネイディは身を乗り出してくる。
「イデアメリトスのお世継ぎが、旅に成功して帰ってくるんだよ…言っちゃいけないってのは、都に入るまで旅が成功とみなされないからだ」
直前で何かあって、失敗しちゃったら困るだろ。
へぇ、イデアメリトスの御世継ぎがー…って!?
「ええええーーーー!!!」
農林府は、景子の絶叫で引き裂かれたのだった。
都が、浮かれ始めていた。
卒業間近の学校へ向かう道の途中、景子は首をひねる。
「ねぇ、シェロー…なんかあるの?」
隣を歩く、初等科の子供に声をかけた。
「ねーちゃん、何にも知らねぇのな」
一度顔をしかめた後、シェローはあきれた声を出す。
う、すみません。
「来月入ったらすぐ、イデアメリトスの祭りがあるんだぜ」
30年ぶりなんだってさ。
へぇへぇ。
説明に、景子は頷いた。
そうか、お祭りか。
それなら、町の人が浮かれる気持ちも、分からないでもない。
「あっ、でも、祭りがあるっていうのは、本当は言っちゃダメなんだぜ」
なのに。
慌ててシェローは、周囲を見た。
自分の言葉が、他の誰にも聞かれていないか心配したのだろう。
「なあに、それ…変なの」
祭りがあるのに、祭りがあると言ってはいけない、と。
「うーん、俺もよくわかんないんだけど、かーちゃんがそう言うんだ。みんな知ってなきゃいけないけど、おおっぴらに言っちゃいけないって」
それで、景子に祭りの話が入ってこなかったのか。
おもしろそうなお祭りだな。
彼女は──死ぬほど単純な生き物だった。
そして。
事態が、そんなに単純ではないことを、職場で知ることになる。
「ネイディ…言っちゃいけないお祭りって知ってる?」
もうすぐあるらしいんだけど。
景子が、職場の仲間に小さい声で問いかけると。
彼は、がくーっと肩を落としたのだ。
「ちょ…イデアメリトスの御方と付き合いあるくせに、そんなことも知らないのか」
周囲をはばかるように、ネイディは身を乗り出してくる。
「イデアメリトスのお世継ぎが、旅に成功して帰ってくるんだよ…言っちゃいけないってのは、都に入るまで旅が成功とみなされないからだ」
直前で何かあって、失敗しちゃったら困るだろ。
へぇ、イデアメリトスの御世継ぎがー…って!?
「ええええーーーー!!!」
農林府は、景子の絶叫で引き裂かれたのだった。