アリスズ

「イ、イデアメリトスの日向花…」

 ネイディが、口をぱくぱくとしながら、そんな単語を口にした。

 ようやく涙もおさまって、景子がアディマを見て照れ笑いが出来るようになった頃のことだ。

 開いたままの扉と、そのあたりでうろうろしていたネイディの方を見ると、彼は廊下の向こう側を見て、肝をつぶしている。

「ふふ、素敵な名前で呼んでくれるではないか」

 色っぽいようで、妙に芯のある力強い響きの女性の声が、はっきりと部屋の中へと届いた。

 イデアメリトス?

 きょとんとしていると──アディマが、ため息と共に天を仰いだ。

「うちの愚甥が、おるだろう?」

 長い指が、軽くネイディをおしやった。

 そして。

 部屋を覗き込む、金褐色の瞳。

 らんらんと輝く、肉食獣のような色。

 それよりもなによりも、アディマと同じように美しく明るく輝く命の光をまとっている。

 どう見ても、イデアメリトスの血筋だ。

「叔母上…」

 一体、何しにいらっしゃったんですか。

 アディマの声には、微かに咎める色合いが浮かびかけたが。

 が。

 はっと、彼は表情を変えた。

 ざくざくとアディマは、叔母に向かって歩き出すと、彼女を部屋に引っ張り込んだ。

 そして。

「すまない…少し内輪の話をさせてほしい」

 と、ネイディに告げるや。

 彼を外に置いて、扉を閉ざしてしまったのである。

 え? え?

 景子は、キョロキョロした。

 内輪の話なら、自分も出た方がいいのではないか、と。

「何だ、このちっこいのは?」

 ソファに座ったままの景子を、迫力のある上からの角度で見下ろされる。

 よどみない足取りで近づいてくると、その迫力が倍増するのだ。

 あわわわわ。

 食われそうな勢いに、景子がぷるぷるしていると。

 その身体が、ちょっと後退した。

「僕の、伴侶にしたい人です」

 引き戻したのは、アディマの手。

 はっと振り返った彼女は。

「あ、あははははははははっはは!」

 大爆笑を始めた。
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