アリスズ
☆
祭の終わりが来て。
ようやく、景子は目が見えるようになった。
ずっと寝ていたせいで、だるい身体をベッドに沈めて、小さくため息をつく。
「暗い!」
バァンっと扉を開けたロジューが、そんな景子の周囲を渦巻く気を、一言の元に蹴り飛ばす。
「もう動いていいぞ…というか、とっとと起きろ」
そして、病み上がりの彼女を、ベッドから放り出すのだ。
「明後日には帰るからな…その前に、お前を連れて行くところがある」
その自分勝手で強引な行動も、いまの景子にはちょうどいい。
しかし、もうすぐ帰ると言われたら、彼女には気になることもあった。
「もう、農林府は動いてますか?」
ロジューの後をついて歩くだけで、ふぅふぅ言いながら、景子は息の合間から言葉を紡ぎ出す。
もし動いているのならば、帰る前に行きたかったのだ。
「割れた硝子のことなら、あとで届けさせればいいだろう」
あう。
簡単に一蹴され、彼女はしょぼんとした。
しかし、随分長い距離を歩く。
くり抜かれた飾り窓から、容赦なく日差しが差し込む廊下を、かなり歩いている気がした。
人通りも多く、さっきからロジューに道を開け礼を尽くす。
そんな人々を気にせず、彼女の長い脚は歩を刻み続けた。
「大体…イデアメリトスあっての農林府だろう」
奇妙な話が、そこから始まった。
「兄者と、いろいろ話し合ったのだ。そろそろ、本当に外の血を少し必要としているのかもしれないと」
ぴたりと。
目的地についたのだろうか。
ロジューは足を止める。
「しかし、慣習とは恐ろしいものでな…破るとなると、相当の覚悟がいる」
何を、言っているのだろう。
「そこで、だ…最初に試験をしてみることにしたのだ」
扉を、顎で指す。
「愚甥の部屋だ」
言われて驚いた。
長い距離だと思っていたら、東翼まで来ていたのである。
驚くままの彼女に、ロジューは視線をやや落とし気味に、景子の顔を覗き込んだ。
「とりあえず…愚甥の子を産んでみろ」
地震と雷と火事と親父が、全部一緒にやってきた気がした。
祭の終わりが来て。
ようやく、景子は目が見えるようになった。
ずっと寝ていたせいで、だるい身体をベッドに沈めて、小さくため息をつく。
「暗い!」
バァンっと扉を開けたロジューが、そんな景子の周囲を渦巻く気を、一言の元に蹴り飛ばす。
「もう動いていいぞ…というか、とっとと起きろ」
そして、病み上がりの彼女を、ベッドから放り出すのだ。
「明後日には帰るからな…その前に、お前を連れて行くところがある」
その自分勝手で強引な行動も、いまの景子にはちょうどいい。
しかし、もうすぐ帰ると言われたら、彼女には気になることもあった。
「もう、農林府は動いてますか?」
ロジューの後をついて歩くだけで、ふぅふぅ言いながら、景子は息の合間から言葉を紡ぎ出す。
もし動いているのならば、帰る前に行きたかったのだ。
「割れた硝子のことなら、あとで届けさせればいいだろう」
あう。
簡単に一蹴され、彼女はしょぼんとした。
しかし、随分長い距離を歩く。
くり抜かれた飾り窓から、容赦なく日差しが差し込む廊下を、かなり歩いている気がした。
人通りも多く、さっきからロジューに道を開け礼を尽くす。
そんな人々を気にせず、彼女の長い脚は歩を刻み続けた。
「大体…イデアメリトスあっての農林府だろう」
奇妙な話が、そこから始まった。
「兄者と、いろいろ話し合ったのだ。そろそろ、本当に外の血を少し必要としているのかもしれないと」
ぴたりと。
目的地についたのだろうか。
ロジューは足を止める。
「しかし、慣習とは恐ろしいものでな…破るとなると、相当の覚悟がいる」
何を、言っているのだろう。
「そこで、だ…最初に試験をしてみることにしたのだ」
扉を、顎で指す。
「愚甥の部屋だ」
言われて驚いた。
長い距離だと思っていたら、東翼まで来ていたのである。
驚くままの彼女に、ロジューは視線をやや落とし気味に、景子の顔を覗き込んだ。
「とりあえず…愚甥の子を産んでみろ」
地震と雷と火事と親父が、全部一緒にやってきた気がした。