アリスズ
☆
 祭の終わりが来て。

 ようやく、景子は目が見えるようになった。

 ずっと寝ていたせいで、だるい身体をベッドに沈めて、小さくため息をつく。

「暗い!」

 バァンっと扉を開けたロジューが、そんな景子の周囲を渦巻く気を、一言の元に蹴り飛ばす。

「もう動いていいぞ…というか、とっとと起きろ」

 そして、病み上がりの彼女を、ベッドから放り出すのだ。

「明後日には帰るからな…その前に、お前を連れて行くところがある」

 その自分勝手で強引な行動も、いまの景子にはちょうどいい。

 しかし、もうすぐ帰ると言われたら、彼女には気になることもあった。

「もう、農林府は動いてますか?」

 ロジューの後をついて歩くだけで、ふぅふぅ言いながら、景子は息の合間から言葉を紡ぎ出す。

 もし動いているのならば、帰る前に行きたかったのだ。

「割れた硝子のことなら、あとで届けさせればいいだろう」

 あう。

 簡単に一蹴され、彼女はしょぼんとした。

 しかし、随分長い距離を歩く。

 くり抜かれた飾り窓から、容赦なく日差しが差し込む廊下を、かなり歩いている気がした。

 人通りも多く、さっきからロジューに道を開け礼を尽くす。

 そんな人々を気にせず、彼女の長い脚は歩を刻み続けた。

「大体…イデアメリトスあっての農林府だろう」

 奇妙な話が、そこから始まった。

「兄者と、いろいろ話し合ったのだ。そろそろ、本当に外の血を少し必要としているのかもしれないと」

 ぴたりと。

 目的地についたのだろうか。

 ロジューは足を止める。

「しかし、慣習とは恐ろしいものでな…破るとなると、相当の覚悟がいる」

 何を、言っているのだろう。

「そこで、だ…最初に試験をしてみることにしたのだ」

 扉を、顎で指す。

「愚甥の部屋だ」

 言われて驚いた。

 長い距離だと思っていたら、東翼まで来ていたのである。

 驚くままの彼女に、ロジューは視線をやや落とし気味に、景子の顔を覗き込んだ。

「とりあえず…愚甥の子を産んでみろ」

 地震と雷と火事と親父が、全部一緒にやってきた気がした。
< 271 / 511 >

この作品をシェア

pagetop