アリスズ

 叔母の出立の前。

 アディマは、見送りと称して西翼に顔を出していた。

 叔母であり、第一妃候補の部屋へ顔を出す事に、誰一人と違和感を覚える者などいない。

 それどころか、東翼でほとんどの使用人が出入り禁止になっている二日間、ロジューが彼の部屋にいたのではないかと、まことしやかに噂になっていたのだ。

 部屋に入ると、そこには出発の準備を済ませた叔母と──ケイコがいた。

 彼女は、一瞬アディマを見た後、恥ずかしそうにうつむいた。

「お発ちになられるのですね、叔母上様」

 それに微笑みながら、彼はロジューに挨拶をする。

「挨拶とは、顔をこっちに向けて言うものだ」

 挨拶など、ただの隠れ蓑に過ぎないことを知っている叔母は、まったくもって容赦がなかった。

「ケイコ…身体は平気かい?」

 そんな叔母の厭味をさらりと流し、今日荷馬車に揺られる身を案じる。

 頬の色が赤く染まって、とても輝いて見えた。

「歩いて帰るんじゃあるまいし…甘やかすなと言っておるだろうが」

 具合が悪くなったら、荷馬車でいくらでも寝られる。

 どうにも叔母は、アディマが彼女に構いすぎることを、快く思っていない。

 イデアメリトスの世継ぎだからなのか、単なる彼女の性格によるものなのかは、よく分からなかったが。

「大丈夫よ…アディマ……」

 いつも通り、元気な顔をするケイコが、しかし余韻を残すように言葉を失った。

 落ち着かなく目が動く。

「何か…あったのか?」

 そう悪いことがあったようには思えなかったが、アディマは気になって問いかけてみた。

 明日からは、問うことさえ出来ないのだから。

「あ…あのね…あの……」

 ケイコが、視線を落とす。

「言っておいた方がいいのか…分からないんだけど…間違ってるかもしれないんだけど……」

 視線を上げ、何度も戸惑いに唇をよどませながらも、アディマに何かを伝えようとする。

「あのね…ここが…光ってるの」

 ぴかぴかって。

 ケイコの両手は──おなかにあてられた。
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