アリスズ
☆
 ネイディに室長を預けている間に、こっそり景子は厨房へと向かった。

 彼の部屋から借りてきた、空の水差しを持って、だ。

 景子は、旅をしている間、あちこちの屋敷に一時的に泊めてもらうこともあった。

 特に、イエンタラスー夫人の屋敷では、平気で厨房にも出入りしていたのである。

 どこの屋敷の厨房も、さしたる差はなかった。

 そこで、彼女は使用人に頼み、砂糖と塩を分けてもらい、水差しの中に簡単なスポーツ飲料をこしらえたのだ。

 水分と栄養が必要だと思った。

 室長は、ほとんど汗をかいていない。

 既に、脱水症状に近いはずだ、と。

「おい、僕を一人にするなよ」

 戻ると、既に着替えは終わっていたが、ネイディはおかんむりだった。

「ああ、ごめんね…ちょっと室長の身体を起こすの手伝って」

 わびつつも、景子は次のお願いごとを軽く上積みする。

 何でだろう。

 本当に、ネイディには頼みやすいというか、頼みやすい気が出ているというか。

「いい加減にしろ」

 と、言いながらも、やっぱり彼は手伝ってくれるのだ。

「室長、少し水を口に入れますからね」

 ネイディに支えさせた身体を、彼女も片手で補助しながら、杯を唇にあてる。

 ゆっくりゆっくり、休み休み流し込む。

 それを何回か繰り返して、再び横たえる。

 額を濡らした布で冷やしてしばらくすると、ようやく彼の顔にうっすらと汗が浮かんだ。

 景子は、それに少しだけほーっとした。

 彼の身体が、いまの自分の状態をどうにかしようと、動き始めたのが分かったからだ。

 光を、見た。

 爆ぜる光は、そのままではあったが、さっきよりも間隔は長くなってきている。

「もういいだろう?」

 ネイディは、早く出て行きたそうだ。

 景子の視線の端で、ゆっくりと光が点滅した。

「う、うん…でも、もう少し…」

 せめて。

 光が爆ぜなくなるまで。
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