アリスズ
☆
目が──開いた。
時は、夕刻になろうとしていただろうか。
まだ、熱は下がりきっていないが、室長はゆっくりと目を開けたのだ。
景子は、それにほっとする。
「もう少し、水分を取った方がいいです…」
ソファでうつらうつらしていたネイディを起こして、彼に何度めかのスポーツ飲料もどきを飲ませる。
熱ではっきりしない視線だが、それでも彼の目は物問いたげだった。
何故ここに、部下がいるのか分かっていないようだ。
彼女は、ようやく彼の光が、爆ぜなくなったのを確認していた。
それに、ほっと胸をなでおろす。
「まだ、水差しには入っていますから、まめに飲んで下さい。お医者様も呼んで下さいね」
後ろ髪は引かれるものの、彼女に出来るのはこれが精いっぱいだ。
もうそう遠くなく、彼の兄も帰ってくるに違いない。
退散すべき時だった。
「それでは、失礼します」
ネイディは、身なりをきちんと整えて、景子は何度も振り返りながら、そしてようやく屋敷を出て行ったのだ。
はぁ。
農林府への道をたどりながら、景子はため息をついた。
「ため息をつきたいのは、僕の方だ」
ネイディは、本当に肩を落としている。
「僕の出世の道が、このまま閉ざされたら、ケーコのせいだからな」
そしてまた、彼女に巻き込まれたことを嘆くのだ。
しかし、景子はネイディを見ながらも、微かな笑顔になっていた。
まだ、完全に室長が大丈夫だと決まったわけではないのだが、彼女は出来る限りのことはしたのである。
あの時とは、違うのだ。
だが、景子は同時に分かっていた。
これは、ただの自己満足なのだと。
あの上司に対して、とりわけ強い好意を抱いているわけでもない。
それは、本当に重々分かっている。
ただ。
赦されたかったのだ。
自分に──赦されたかった。
目が──開いた。
時は、夕刻になろうとしていただろうか。
まだ、熱は下がりきっていないが、室長はゆっくりと目を開けたのだ。
景子は、それにほっとする。
「もう少し、水分を取った方がいいです…」
ソファでうつらうつらしていたネイディを起こして、彼に何度めかのスポーツ飲料もどきを飲ませる。
熱ではっきりしない視線だが、それでも彼の目は物問いたげだった。
何故ここに、部下がいるのか分かっていないようだ。
彼女は、ようやく彼の光が、爆ぜなくなったのを確認していた。
それに、ほっと胸をなでおろす。
「まだ、水差しには入っていますから、まめに飲んで下さい。お医者様も呼んで下さいね」
後ろ髪は引かれるものの、彼女に出来るのはこれが精いっぱいだ。
もうそう遠くなく、彼の兄も帰ってくるに違いない。
退散すべき時だった。
「それでは、失礼します」
ネイディは、身なりをきちんと整えて、景子は何度も振り返りながら、そしてようやく屋敷を出て行ったのだ。
はぁ。
農林府への道をたどりながら、景子はため息をついた。
「ため息をつきたいのは、僕の方だ」
ネイディは、本当に肩を落としている。
「僕の出世の道が、このまま閉ざされたら、ケーコのせいだからな」
そしてまた、彼女に巻き込まれたことを嘆くのだ。
しかし、景子はネイディを見ながらも、微かな笑顔になっていた。
まだ、完全に室長が大丈夫だと決まったわけではないのだが、彼女は出来る限りのことはしたのである。
あの時とは、違うのだ。
だが、景子は同時に分かっていた。
これは、ただの自己満足なのだと。
あの上司に対して、とりわけ強い好意を抱いているわけでもない。
それは、本当に重々分かっている。
ただ。
赦されたかったのだ。
自分に──赦されたかった。