アリスズ
☆
ちょっと、緊張するなあ。
ソファを勧められて、アディマの向かいに座りながら、景子はどきどきしていた。
彼女は、最初からアディマを子供として見ていないので、一人の人間を改まって訪問した形に思えたのだ。
ダイの様子からすると、この訪問は余り歓迎されてはいないようで。
さっさと済ませた方がいいのだろう──が。
目が合って、景子は照れ笑いを浮かべてしまった。
「あ、あのね…アディマ」
言おうとしていた言葉が、半分頭の上にすっ飛んでいってしまいそうになるのを、何とか掴んで引き留めながら、彼女は言葉を紡いだ。
「アディマは、これから何処へ行くの?」
言ってみて、失敗したことに気づいた。
ああ──紙が欲しい。
切実に、そう思ったのだ。
エプロンは外して置いてきたが、そこのポケットに作業用のボールペンが1本と、端数になって分けておいた種の袋は入っていた。
要するに。
絵を描く筆談以外で、この思いを伝える手段を持っていないことに、景子は気づいたのである。
「ケーコ…───?」
アディマも、何かを問いかけてくるが、何が言いたいのか全然分からない。
名前のようには、いかないのだ。
お互い、聞きたいことはたくさんある。
それは、分かる。
向こうからすれば、彼女らの方こそ、得体が知れないことだろう。
言葉、かぁ。
ふぅと、景子はため息を吐きながら、ソファに深く身体を埋めた。
逆に、ゆっくりとアディマが立ち上がる。
そして、彼女の側へと回ってきた。
「ケーコ…───」
何かを語りかける瞳で、隣に座る。
その猫目石の瞳には、心をかき乱す効果でもあるのだろうか。
近ければ近いほど、どきどきしてしまう。
こんなに艶のある目をした人を、知らなかった。
その瞳のアディマが、彼女に何かを求めている。
それは、何となく伝わっていた。
一緒に行こう。
そう言っているのだろうか。
見つめられると──非常に断りづらい誘いだった。
ちょっと、緊張するなあ。
ソファを勧められて、アディマの向かいに座りながら、景子はどきどきしていた。
彼女は、最初からアディマを子供として見ていないので、一人の人間を改まって訪問した形に思えたのだ。
ダイの様子からすると、この訪問は余り歓迎されてはいないようで。
さっさと済ませた方がいいのだろう──が。
目が合って、景子は照れ笑いを浮かべてしまった。
「あ、あのね…アディマ」
言おうとしていた言葉が、半分頭の上にすっ飛んでいってしまいそうになるのを、何とか掴んで引き留めながら、彼女は言葉を紡いだ。
「アディマは、これから何処へ行くの?」
言ってみて、失敗したことに気づいた。
ああ──紙が欲しい。
切実に、そう思ったのだ。
エプロンは外して置いてきたが、そこのポケットに作業用のボールペンが1本と、端数になって分けておいた種の袋は入っていた。
要するに。
絵を描く筆談以外で、この思いを伝える手段を持っていないことに、景子は気づいたのである。
「ケーコ…───?」
アディマも、何かを問いかけてくるが、何が言いたいのか全然分からない。
名前のようには、いかないのだ。
お互い、聞きたいことはたくさんある。
それは、分かる。
向こうからすれば、彼女らの方こそ、得体が知れないことだろう。
言葉、かぁ。
ふぅと、景子はため息を吐きながら、ソファに深く身体を埋めた。
逆に、ゆっくりとアディマが立ち上がる。
そして、彼女の側へと回ってきた。
「ケーコ…───」
何かを語りかける瞳で、隣に座る。
その猫目石の瞳には、心をかき乱す効果でもあるのだろうか。
近ければ近いほど、どきどきしてしまう。
こんなに艶のある目をした人を、知らなかった。
その瞳のアディマが、彼女に何かを求めている。
それは、何となく伝わっていた。
一緒に行こう。
そう言っているのだろうか。
見つめられると──非常に断りづらい誘いだった。