アリスズ

 はぁ。

 部屋を出て、景子は頭を抱えた。

 筋道立てて考えようとしても、大前提がめちゃくちゃ過ぎて、まとまるものもまとまらない。

 大体。

 アディマが旅を続けるとして。

 あの子供ならざる者は、一体どこへ向かおうとしているのか。

 高貴な身分そうなのに、たったあれだけの従者で。

 また、昨夜のような敵に追いかけられたら、命の保証はないのに。

 うーん、うーん。

 悩んでいてもしょうがない。

 景子は、途中で頭を抱えるのをやめた。

 アディマと話をしよう。

 そう、結論づけたのだ。

 言葉は分からないが、身ぶり手ぶりを交えて話をすれば、きっと通じるはずである。

 最初に、名前を教え合ったように。

 すっかり顔パスになったのか、彼女がちょろちょろしていても使用人で咎める人はいなかった。

 朝からずっと双子の世話などで、使用人の間を駆け回っていたおかげだろう。

 ここで働くっていうのも、悪くなさそうなのよね。

 そんな、労働根性のしみついた景子は、ようやくそれらしい部屋を探しあてた。

 何しろ。

 部屋の前には──ダイが座っていたのだから。

 中の人を守っています。

 そんな彼が守る相手など、アディマしかいないではないか。

 とととっと近づくと、彼が景子を見た。

 ずっと前に一度見られたのは知っていたが、この部屋に用があるとは思っていなかったのだろう。

 鞘におさめた剣を抱えたまま、彼女を見上げる。

「こんばんは、ダイさん。アディマいますか?」

 梅を見習って、堂々と日本語で通してみる。

 だが、名前だけは伝わるだろう。

 彼は視線を一度、後ろの扉に向けたが──首を横に振った答えが返ってきた。

 あー、ダメなのかあ。

 そっかあ。

 しょんぼりして、景子が元来た道を戻ろうとした時。

 ドアが、開く音がした。

「…ケーコ」

 アディマだ。

 景子が、ぱぁっと顔を輝かせた向こう側で。

 ダイは、俺は知らん、何も見てないという風に──あらぬ方を見てしまった。
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