アリスズ

「不満か…リサードリエック」

 府長を退席させた後、彼の方を顧みる。

「いいえ、我が君」

 しかし、リサーは即答した。

「ここまで進んだ話に、私はもはや異論はありません…ただ」

 その表情が、苦く、そして厳しくなる。

 眉間に深い皺が刻まれた。

「あの者は、妃として宮殿の中におとなしくしているでしょうか」

 それが、本当に気がかりだと。

 リサーを悩ませているのだ。

 ああ。

 アディマは、苦笑した。

「農林府の仕事は、続けたいそうだ」

 さすがは、ケイコと共に旅をしただけのことはある。

 的確な心配だった。

「役人を続ける妃など、前代未聞ではありませんか」

 ぎょっと、リサーの目がひんむかれる。

 ケイコと一緒に、農村に行けと言った時の彼を思い出して、アディマは笑った。

 まさに、あれと同じ顔だったのだ。

「だが、ケイコにしかない知識もたくさんある…彼女が、この国の穀物の未来を握っているぞ」

 笑いながら、アディマは彼を諭した。

「それは…そうですが。他の者に知識を伝えることで、別に本人が出て行かなくとも…」

 リサーもまた、慎重派だ。

 アディマも、そうできる事ならそうしたいという本音はあった。

 放っておくと、彼女はすぐに飛んで行ってしまいそうな性格をしているのだから。

 いまはまだ、子供のことで遠くには行かないだろうが。

「彼女が自分で畑を見なければ、分からないこともある」

 彼女の魔法は、命を見る魔法だから。

 この婚姻のために、アディマはケイコの魔法について、リサーにもダイにも伝えた。

 今日は、太陽府の者にも。

 この先、隠すことはない。

 人々の知る魔法とは、イデアメリトスの魔法だ。

 ケイコにも、同じ力があると自然に錯覚してくれる。

 その錯覚が。

 彼女を守る力の、ひとつになるのだ。
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