アリスズ
○
「だ、大丈夫でしょうか」
エンチェルクが、不安そうに道場の音を見る。
木剣を打ち合う音や、時折強い声が聞こえてくるせいだ。
「大丈夫よ…あれが普通のことだから」
梅は、笑いながら言った。
道場の裏手には、小さいながらに家をこしらえてもらっている。
菊は、家にはまったく頓着しなかったようで、こちらの様式のごくごく普通の家だ。
そこに、梅は移り住んできていた。
久しぶりの姉妹の生活。
エンチェルクがいてくれるおかげで、生活の上で困ったことは少ない。
ここから、毎日梅は宮殿へと仕事で通う。
幸い、内畑の側である。
そのおかげで、農林府の管理詰所が近いため、宮殿への往復に荷馬車を出してもらえることになっていた。
全ては、イデアメリトスの君の計らいのおかげだ。
梅に、仕事上の肩書はまだない。
ただ、毎日のように学者たちと顔を合わせている。
それと、より高度な技術者の育成のための制度づくり。
新しい第三次産業の商法の提案。
町ごとの、医師を確保する方法。
教福農工商のうちの、農以外の分野に、精力的に梅は動いていた。
農はいいのだ。
そこは、景子がいてくれる。
だが、農の能力が上がってくると、人口が増える。
人口が増えると、教育も必要になるし職もいるのだ。
その受け皿を作る体制が、この国には必要だった。
町を見て、学校を見て、人と話し。
身体はいくつあっても足りないのに、一人分の身体以下の梅では、それもままならない。
だが、梅にはエンチェルクがいる。
走れない梅のために走り、慣れない勉強も一生懸命してくれる。
「私も…習おうかなぁ」
そんな彼女が。
道場の方を見ながら、ふとそんなことを漏らした。
きっと。
きっと、それが梅を守る手段になるのだと──そう考えてくれたのだろう。
「だ、大丈夫でしょうか」
エンチェルクが、不安そうに道場の音を見る。
木剣を打ち合う音や、時折強い声が聞こえてくるせいだ。
「大丈夫よ…あれが普通のことだから」
梅は、笑いながら言った。
道場の裏手には、小さいながらに家をこしらえてもらっている。
菊は、家にはまったく頓着しなかったようで、こちらの様式のごくごく普通の家だ。
そこに、梅は移り住んできていた。
久しぶりの姉妹の生活。
エンチェルクがいてくれるおかげで、生活の上で困ったことは少ない。
ここから、毎日梅は宮殿へと仕事で通う。
幸い、内畑の側である。
そのおかげで、農林府の管理詰所が近いため、宮殿への往復に荷馬車を出してもらえることになっていた。
全ては、イデアメリトスの君の計らいのおかげだ。
梅に、仕事上の肩書はまだない。
ただ、毎日のように学者たちと顔を合わせている。
それと、より高度な技術者の育成のための制度づくり。
新しい第三次産業の商法の提案。
町ごとの、医師を確保する方法。
教福農工商のうちの、農以外の分野に、精力的に梅は動いていた。
農はいいのだ。
そこは、景子がいてくれる。
だが、農の能力が上がってくると、人口が増える。
人口が増えると、教育も必要になるし職もいるのだ。
その受け皿を作る体制が、この国には必要だった。
町を見て、学校を見て、人と話し。
身体はいくつあっても足りないのに、一人分の身体以下の梅では、それもままならない。
だが、梅にはエンチェルクがいる。
走れない梅のために走り、慣れない勉強も一生懸命してくれる。
「私も…習おうかなぁ」
そんな彼女が。
道場の方を見ながら、ふとそんなことを漏らした。
きっと。
きっと、それが梅を守る手段になるのだと──そう考えてくれたのだろう。