アリスズ

「そうかい、一緒に暮らせるようになったのかい」

 ネラッサンダンは、嬉しそうに言ってくれた。

 子供は宮殿に預け、景子は一度下宿先に帰って来たのだ。

 この後、またささやかな荷物を持って、宮殿に向かうことになる。

 そんな彼女の横にいるのは、リサー。

 叔父に、状況を報告するためだろう。

「なんでー、もうチビたちいなくなるの? ケーコもいなくなるの?」

 シェローが、泣きそうな顔で景子にしがみつく。

 ここしばらくで、随分お兄さんになったが、やっぱりまだ子供だ。

「大丈夫、また会えるわ…この都にいるんだから」

 膝を折って、景子はそんなシェローの頭を撫でる。

 そんな彼女の言葉を、リサーが嫌そうに見下ろしている。

「旦那と子供と一緒に暮らせるのが一番だよ…うんうん、よかったね」

 本当の旦那を知らないネラッサンダンは、息子を完全無視したまま、晴れやかな笑顔を向ける。

 そんな親子と雑談を交わしている間に、リサーはいなくなってしまった。

 叔父のところだろうか。

 ひととおり、荷物の片付けが済んだところで。

「げっ」

 シェローが、いやな声を上げた。

 その声に、扉の方を振り返ると──リサーとその叔父が立っていて。

 シェローは、慌てて自分の姿を隠そうとした。

 彼は、この家では厄介者として扱われているのだ。

 ネラッサンダンも、突然の主人の訪問に慌てふためいている。

 下宿人が出て行くごときで、主人が来るとは思ってもいなかったのだろう。

 あっと、景子は居住まいを正した。

「長い間、置いていただき、本当にありがとうございました! お世話になりました!」

 精いっぱいの御礼を、言葉で表現しようとすると。

 不思議なことが起きた。

「そ、そ、そ、そんなことはなさらないでください!」

 あの、リサーの叔父が、慌てふためいて景子の頭を上げさせようとしたのである。

 ありえない光景に、親子が固まってしまった。

 あー。

 嫌な感じに、景子は困った汗を流す。

 言ったんだ。

 リサーは、叔父に言ってしまったんだ。

 景子の今後のことを。
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