アリスズ

「いつも、食事はどうしてるんだ?」

 夜、外で食事が出来るところは酒場くらいだ。

 その酒場へと向かいながら、菊は素朴な疑問を口にしてみた。

「官舎か外か…どっちかだ」

 答えに、彼女はああと理解した。

 いま、彼の肩書きは近衛隊長で。

 官舎があてがわれていて、そこでは身の回りの世話をする者もいるのだろう。

「随分、出世したじゃないか」

 異例の大出世だろう。

 そもそも、ダイみたいな男は出世できないと相場が決まっている。

 こんな愚直な男は、出世しようとしても、騙されて殺されるか、最前線で死ぬまで戦わされるか、はたまた辺境で退屈に干されるか。

 この国の、階級社会を考えると、何ら不思議なことではなかった。

 大体。

 御曹司の旅に、同行できたことが奇跡ではないだろうか。

 本来であれば、リサーのようなもう少し身分があって、腕っぷしのある人間が選ばれるはずだったのだろう。

 ただ、御曹司の目は確かだった。

 確かゆえに、ダイは出世してしまったのだ。

「………」

 苦笑混じりの視線が投げられる。

 本人は、望んでいないのだろう。

 だが、彼は御曹司の旅を成功させた、同行者という誉れを手に入れてしまった。

 この誉れには、たとえ貴族であったとしても、手出しが出来ないと梅が言っていたのだ。

 リサーとダイは、順当に行けば──賢者の地位につくという。

 御曹司の血筋を除けば、最高の地位の11人の一人に。

 リサーはともかくとして、ダイについてはいい買い物をしたと思っている。

 裏切りや策謀の心配は、一切いらない。

 ただ、御曹司の剣となり盾となる男だ。

「身動きが取りにくくなった…」

 いいことばかりではないのだとでも言うかのように、ダイがぽつりと呟く。

「気にせず動けばいい。いい背中を見せれば、人は勝手についてくる」

 この国の中でも、屈指のよい背中を菊は叩いたのだった。
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