アリスズ
△
兵士の集まる酒場に、連れて行かれた。
食事は大味で、どちらかというと量を重視している。
若い兵士ならば、確かにこれくらい食べなければならないだろう。
菊は、そこでの食事をそれなりに楽しんだ。
ダイは話し上手ではないが、沈黙の間でも居心地の悪さはない。
穏やかな時間は、次第に過ぎてゆき、食事が終わった頃。
「さて」
菊は、立ちあがった。
「ごちそうさま。ありがとうな」
そうして、帰ろうとしたのだ。
「待っていてくれ」
なのに。
ダイは、そう言い置くと、店の親父に支払いに行ってしまった。
待ってろ?
理由を聞く間もなくいなくなるのだから、彼女はただ待っているしか出来ない。
手持無沙汰に立っていると、ダイが戻って来た。
「この後、どこかへ行くのか?」
とりあえず、頭に浮かんだことを聞いてみる。
まだ菊を連れていくところがあるから、引き止めたのだろうかと。
すると、ダイは言葉にしがたい表情を浮かべた。
しばらくの沈黙の後。
「送ろうと思ったんだが…余計なことか?」
ぼそりと、彼はそう呟いたのだ。
客観的に見れば、滑稽な話だった。
この国の近衛隊長と、互角で戦うことの出来る腕前の人間を、家まで送ろうなどとは。
どっちがどっちを守るというより、この二人に手を出したら、肉も骨も無残なことになることだろう。
「護衛ならいらんぞ」
菊は、愉快になって笑った。
本当に、いい奴だな、と。
「だが…月を肴に、話相手になってくれるなら付き合ってくれ」
この国の、近衛隊長に向かって。
菊は、堂々と月見に誘ったのだった。
兵士の集まる酒場に、連れて行かれた。
食事は大味で、どちらかというと量を重視している。
若い兵士ならば、確かにこれくらい食べなければならないだろう。
菊は、そこでの食事をそれなりに楽しんだ。
ダイは話し上手ではないが、沈黙の間でも居心地の悪さはない。
穏やかな時間は、次第に過ぎてゆき、食事が終わった頃。
「さて」
菊は、立ちあがった。
「ごちそうさま。ありがとうな」
そうして、帰ろうとしたのだ。
「待っていてくれ」
なのに。
ダイは、そう言い置くと、店の親父に支払いに行ってしまった。
待ってろ?
理由を聞く間もなくいなくなるのだから、彼女はただ待っているしか出来ない。
手持無沙汰に立っていると、ダイが戻って来た。
「この後、どこかへ行くのか?」
とりあえず、頭に浮かんだことを聞いてみる。
まだ菊を連れていくところがあるから、引き止めたのだろうかと。
すると、ダイは言葉にしがたい表情を浮かべた。
しばらくの沈黙の後。
「送ろうと思ったんだが…余計なことか?」
ぼそりと、彼はそう呟いたのだ。
客観的に見れば、滑稽な話だった。
この国の近衛隊長と、互角で戦うことの出来る腕前の人間を、家まで送ろうなどとは。
どっちがどっちを守るというより、この二人に手を出したら、肉も骨も無残なことになることだろう。
「護衛ならいらんぞ」
菊は、愉快になって笑った。
本当に、いい奴だな、と。
「だが…月を肴に、話相手になってくれるなら付き合ってくれ」
この国の、近衛隊長に向かって。
菊は、堂々と月見に誘ったのだった。