アリスズ

「あら」

 人の気配に外に出て見ると──二つの人影があった。

 エンチェルクが持ってきた燭台のおかげで、ようやくにしてそれが菊とダイであることが分かる。

 珍しく出かけていると思ったら、彼と一緒だったようだ。

 二人は、空を見上げている。

「お月見? 何か持ってきましょうか?」

 梅は、そう声をかけた。

「混ざるかい?」

 菊は、楽しそうだ。

「ええ、お邪魔したいわ…すぐ支度するわね」

 聞いている梅の方が、楽しくなってしまう。

 振り返ると、エンチェルクが挙動不審の状態だった。

「お、お月見って…」

 どうしたらいいか、分からないようだ。

「いいのよ、エンチェルク…無理しないで休んでらっしゃい」

 宗教上のタブーの話である。

 無理強いを、する気はなかった。

 梅は、優しく彼女にそう言うと、少しの飲み物と食料を取りに戻った。

 昼間のぬくもりをわずかに残す土の上に三人で座り、完全に丸くはない月を見上げる。

「この国の暦って、月で作られているのよね」

「ああ、それは思ったよ…19日に必ず満月が来るように作ってある」

 1か月38日。

 19日に満月が来て、38日目に新月が来る。

 その10か月を、1年と定められているのだ。

 本当に、それが正しい公転の1年なのかは、分かる由もない。

 この国には、季節もなければ、太陽の昇る位置や時間もずっと変わらないのだから。

 だが。

 暦は、イデアメリトスが治める、ずっと前からそうだったのだろう。

 その時代。

 月は、この国において、大事な位置づけにあったという証明でもあった。

 ダイが黙って聞いている横で、姉妹で月談義を続けていると。

 彼と菊が、ふっと顎を動かした。

 梅もそれに倣う。

 家の方角だった。

「あ、あのっ…毛布を」

 エンチェルクが、勇気を振り絞るような声で、そこに立っている。

 手には毛布。

 梅の身体に、夜風が悪いと思ったのだ。

 だが、毛布はきっと口実だろう。

 彼女も、ここに混ざりたいと──そう思ったに違いない。
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