アリスズ
△
「すっげー。先生って美人だったんだ」

 子供の言葉には、飾り気がない。

 シェローは、どんぐりまなこを引っ繰り返さん勢いで驚いていた。

「それは、名誉なほめ言葉だな」

 菊は、苦笑で答える。

 女性仕立ての服を着て、長い髪のカツラ。

 何故か、梅に化粧までされてしまった。

 ここまで気合を入れられると、遠目には梅に見えるかもしれない。

「定兼は置いていきなさい…怪しまれるから」

 相方の提案に、菊は頷く。

 預かるのが梅ならば、異論はなかった。

「じゃあ、シェロー…送っていこう」

 餌を。

 生き餌を、菊は用意したのだ。

 シェローやエンチェルクから狙った奴らだ。

 弱い女子供から狙う卑怯者だからこそ、剣の腕のある菊には、いきなりつっかかってこないだろう。

 たが、完全に丸腰の女ならば、奴らも襲いやすかろう。

 スカートを、菊はいやがっているわけではない。

 袴と、さして変わるわけではない。

 だだ、その衣装を着るのにふさわしい立ち居振る舞いを要求されるのが、面倒くさいだけなのだ。

 さて。

 楚々と歩くかね。

 二人で、夜道を行く。

 シェローは、稽古の疲れも忘れてご機嫌だ。

 送り終わるまで、何も仕掛けられては来なかった。

 だが、気配がなかったわけではない。

 闇の中に、ざわめくそれは、遠巻きにずっとついてきていたのだ。

 さて。

 一人、戻る道すがら。

 人気のない通りに、さしかかった時。

 空気が、動いた。

 昼間の熱気が、消えきっていない、ぬるい空気。

 定兼は、ない。

 足音は、みっつ。

 スカートの立ち居振る舞いは――ここで終了、ということだった。
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