アリスズ
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 つながら、なかった。

 ダイは、眉間の皺を深くした。

 暴漢たちは、直接貴族とつながっていたなかったのだ。

 中継した人間を締め上げても、また次が出てくる。

 そして、その道は途中で切れたのだ。

 こんな火種を残したまま、婚姻の儀が執り行われるのは非常に心配だった。

 更に厄介なことに──トーも、まだ都にいる。

 まだ、トラブルは起きていないが、ダイはとにかくひとつでも災厄の種を除こううと考えた。

 ようやく、トーを補足することが出来た。

 彼は、風のようにどこかへ行ってしまうので、行方を見失うこともしばしばあったのだ。

 ただし、歌っていればすぐに分かる。

 その直後、ダイはトーの前に立ったのだ。

「すまんが…しばらく都を出て欲しい」

『出て欲しい』という言葉を使ったが、おそらく口調は『出て行ってくれ』になっていたはずだ。

 存在そのものが危険なのだ。

 その危険が、都にあること。

 そして、キクの近くにあることを、ダイは良かれと思えなかった。

 トーは、目を細める。

 その細くなった瞳で、しかし、ダイをしっかりと見据えるのだ。

「それは…できない」

 拒絶が来るとは、思っていなかった。

 これまで、彼はあるようにあるだけだったのだ。

 この国と太陽と出会うまで、人が作った風の道を、ただ通ってきたように思っていた。

 だが、ダイの作る道を──トーは良しとしなかったのだ。

「私は…歌いに来たのだ」

 細い目は、閉じられた。

 声には、静かな力がある。

 人の耳を奪い去るほどの、深い力だ。

「もうすぐ…この国が変わる日が来る」

 目が開く。

「それを祝う歌を歌うまで…私はここにいるのだ」

 風をかき分けた先にあったのは──鋼の芯、だった。
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