アリスズ
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「やっ…やめてくれっ!」
突然、闇の中から――男の悲鳴があがった。
反射的に、ダイは身構える。
だが、完全に酔いも醒めていないというのに、キクはもっと素早かった。
もう、声の方へと走り出していたのだ。
走ると、余計に酔いが回るぞ。
そんなダイの心配も、どこ吹く風。
瞬時に、キクは異変を見分け、刀を抜かないまま、数人の男を鞘で斬り捨てた。
鞘さばきが見事すぎて、そうとしか見えなかったのだ。
倒れた連中も、斬られたと信じて疑わなかっただろう。
その錯覚が、一瞬の空白を生んだ。
「去ね」
生きている事実に呆然としていた男たちは、キクの鋭い声に尻を叩かれるように、逃げちらかしたのだった。
残ったのは。
腰を抜かした、男が一人。
夜の町を歩くには、ひよわな身体だ。
逃げた連中は、みな丸腰だった。
ちょっとばかし、ガラの悪い町民だろう。
夜に弱そうな男が歩いているのを見て、魔がさして絡んだ、というところか。
キクもそれを分かっているのか、腰を抜かした男に視線も落とさず、ダイの方へと戻って来る。
そんな彼女に。
「ま、待ってくれ! 君たち、知らないか? 夜に歌う男のことを!」
へたりこんだまま、彼は声を裏返らせた。
キクは、足を止める。
心当たりが──ないはずがない。
歌う男、というだけでも、キクはきっと足を止めただろう。
夜に、とオマケがついた日には。
「その男に…何の用だ?」
キクが、静かに問いかける。
「私は、その男を描きに来た! 私は画家なんだ!」
ダイは、思わずキクを見た。
彼女も、こっちを見る。
奇妙な拾いものをしたようだ。
「やっ…やめてくれっ!」
突然、闇の中から――男の悲鳴があがった。
反射的に、ダイは身構える。
だが、完全に酔いも醒めていないというのに、キクはもっと素早かった。
もう、声の方へと走り出していたのだ。
走ると、余計に酔いが回るぞ。
そんなダイの心配も、どこ吹く風。
瞬時に、キクは異変を見分け、刀を抜かないまま、数人の男を鞘で斬り捨てた。
鞘さばきが見事すぎて、そうとしか見えなかったのだ。
倒れた連中も、斬られたと信じて疑わなかっただろう。
その錯覚が、一瞬の空白を生んだ。
「去ね」
生きている事実に呆然としていた男たちは、キクの鋭い声に尻を叩かれるように、逃げちらかしたのだった。
残ったのは。
腰を抜かした、男が一人。
夜の町を歩くには、ひよわな身体だ。
逃げた連中は、みな丸腰だった。
ちょっとばかし、ガラの悪い町民だろう。
夜に弱そうな男が歩いているのを見て、魔がさして絡んだ、というところか。
キクもそれを分かっているのか、腰を抜かした男に視線も落とさず、ダイの方へと戻って来る。
そんな彼女に。
「ま、待ってくれ! 君たち、知らないか? 夜に歌う男のことを!」
へたりこんだまま、彼は声を裏返らせた。
キクは、足を止める。
心当たりが──ないはずがない。
歌う男、というだけでも、キクはきっと足を止めただろう。
夜に、とオマケがついた日には。
「その男に…何の用だ?」
キクが、静かに問いかける。
「私は、その男を描きに来た! 私は画家なんだ!」
ダイは、思わずキクを見た。
彼女も、こっちを見る。
奇妙な拾いものをしたようだ。