アリスズ
☆
二つのベッドの、向こうとこっち。
元々、ランプ1つという小さな明かりしかない部屋だ。
消してしまえば、何も見えなくなるくらい。
その上、景子はメガネを外すのだ。
横になってアディマの方を見ても、顔がこっちを向いているんじゃないかな、くらいしか分からない。
「アディマ…怖い?」
いろいろ聞きたいことのある中で、景子が一番最初に選択したのは、それだった。
言葉が少なくて済むのもあるが、あんな事件がこれまで周囲で何度も起きているはずなのだ。
とても、心穏やかではいられないだろう。
微かに、黒い影がみじろぐように動く。
「…怖くないよ」
ゆっくりとした答え。
逆に、景子が怖かったのではないかと、心配しているようにさえ感じる音だ。
ひとつ、深呼吸をして。
「アディマ…どこ…行く?」
ついに、彼女はそれを聞いた。
多分、こんな単語と。
ようやく拾った言葉を、頭の中でつなげたのだ。
「遠く…─の向こうの──に行くよ」
ゆっくりとした言葉で言ってくれたが、地域の名前なのか、はたまた別のものなのか判別できない。
だが、まだ時間がかかるということだけは、最初の言葉で分かった。
「いいところ?」
それは、アディマにとって、という意味だ。
こんな、何かに命を狙われる旅が、そこに到着すれば終わるのか。
「……」
よく、見えなかったけれども。
アディマが、少し笑ったような気がした。
「うん…いいところだよ。そこで僕は───」
また、分からなくなる。
けれども。
目的地が、いいところだと聞いて、景子はとても安心したのだ。
そこでアディマは、この大変な旅から解放されるのだろう、と。
そっか。
つらいことも、苦しいことも、ちゃんと終わりがあるのだと分かれば、結構人は耐えていける。
ほっとしたら。
旅と精神的疲労で──眠くなった。
二つのベッドの、向こうとこっち。
元々、ランプ1つという小さな明かりしかない部屋だ。
消してしまえば、何も見えなくなるくらい。
その上、景子はメガネを外すのだ。
横になってアディマの方を見ても、顔がこっちを向いているんじゃないかな、くらいしか分からない。
「アディマ…怖い?」
いろいろ聞きたいことのある中で、景子が一番最初に選択したのは、それだった。
言葉が少なくて済むのもあるが、あんな事件がこれまで周囲で何度も起きているはずなのだ。
とても、心穏やかではいられないだろう。
微かに、黒い影がみじろぐように動く。
「…怖くないよ」
ゆっくりとした答え。
逆に、景子が怖かったのではないかと、心配しているようにさえ感じる音だ。
ひとつ、深呼吸をして。
「アディマ…どこ…行く?」
ついに、彼女はそれを聞いた。
多分、こんな単語と。
ようやく拾った言葉を、頭の中でつなげたのだ。
「遠く…─の向こうの──に行くよ」
ゆっくりとした言葉で言ってくれたが、地域の名前なのか、はたまた別のものなのか判別できない。
だが、まだ時間がかかるということだけは、最初の言葉で分かった。
「いいところ?」
それは、アディマにとって、という意味だ。
こんな、何かに命を狙われる旅が、そこに到着すれば終わるのか。
「……」
よく、見えなかったけれども。
アディマが、少し笑ったような気がした。
「うん…いいところだよ。そこで僕は───」
また、分からなくなる。
けれども。
目的地が、いいところだと聞いて、景子はとても安心したのだ。
そこでアディマは、この大変な旅から解放されるのだろう、と。
そっか。
つらいことも、苦しいことも、ちゃんと終わりがあるのだと分かれば、結構人は耐えていける。
ほっとしたら。
旅と精神的疲労で──眠くなった。