アリスズ

 ピチョン。

 その突然の感触に、景子はびくぅっと飛び起きた。

 顔に水滴が落ちたのだ。

 あ、あ、あ、あ!

 甦るパニックに、心臓が飛び出しそうになる。

 しかも、周囲は真っ暗だ。

 だが。

 同時に、真っ暗ではないことも知る。

 ああ。

 その光に、景子は少しずつ呼吸を取り戻した。

 一面の光。

 そうだ。

 生きているものは、光るのだ。

 彼女の周囲には、たくさんの植物があった。

 それは、どこまでもどこまでも続いていた。

 ずっとずっと遠くまで、美しく光り続けている。

 これは、きっと夢に違いない。

 そう思えるほどの、むせかえる緑の草原。

 そこに今、景子はいるのだ。

 ずれたメガネの位置を整えて、彼女はもう一度世界を見まわした。

 ああ、こんな素敵な夢がみられるなんて。

 うっとりしかけた景子は。

 しかし。

「う……」

 自分の足元で、人のうめき声を聞くのだ。

 はっと視線を落とすと。

 光る、ふたつの人の姿。

「梅…大丈夫か、梅」

 起き上がった身体が、もう一人を揺さぶる。

 その声に、聞き覚えがあった。

 よほど、印象に残った姉妹だったからだろうか。

 夢にまで、彼女らを出演させてしまうなんて。

「梅、目を覚ませ、梅!」

「き…く?」

 弱弱しい、梅の声。

「大丈夫か、梅?」

 もう一度の菊の問いかけに。

「名前…連呼しない…で」

 梅は、右手を持ちあげると、力ないまま──ぺち、と菊の頭をはたいたのだった。

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