一木くん

クロブチのキミ


『クロブチのキミ』



一木は少しだけ目が悪い。故に時々眼鏡をかけるのだがその姿は、その、とても…私の心をくすぐるのだ。つまり、一木の眼鏡姿は

「…かっこいい」

「…え、」

しまった、つい思っていることが声に出てしまった、本人に直接言うつもりは全くなかったのに。なんとなく恥ずかしくて目を伏せる。

「それってさ…この写真の人のこと?」

そう言って一木が指で示した先には、誰もがご存知のあの歴史上人物、ナポレオン。一木は休み時間にせかせかと世界史の教科書を片手にお勉強中。

「ああ、いや、その…」

どうしよう、違うよ一木のことだよ、だなんて恥ずかしくて言えるわけがない。

「じゃあ、」

ああ、感づかれてしまっただろうか。

「あいつのこと?」

そう言って彼が指差す方を見ると、クラス1顔が整っていると評判の風岡一太の姿。

「違う違う、確かに彼はイケメンかもしれないけど私の好みじゃない」

思わず全力否定してしまった。逃げ道を自分で踏み潰したも同然…だけど風岡を私の好みだと思われても困るのでやっぱりここは仕方がなかったんだ、うん。

「じゃ、まさか」

腕をぐい、と引っ張られ、私の耳元に一木の口が近づく。

「…俺のことだったりする?」

耳元で囁かれたと同時に頬がぶわっと熱くなるのが分かった。
わあ、気付かれてしまった。もうこれでは弁解のしようがない。

「…ええと、あの、ね」

ニコニコしながら一木は私の言葉の続きを待つ。私が思いっきり赤面してしまったからきとバレバレなのだろう、ちくしょう。

「一木の眼鏡姿、かっこいいなと思って…」

ニコニコがニヤニヤに変わったのが分かった。ああ、絶対に言われる、あの言葉を。

「へぇ、もしかして日野、眼鏡フェチ?」

「フェチじゃない!かっこいいと思うのは一木の眼鏡姿だけ!」



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