たとえばあなたが



省吾は怖気づいて、何も言い返せないまま体を硬直させて立っている。



それを見かねた崇文が、

「焦るなよ」

と、口を挟んで千晶をたしなめた。



「省吾を犯罪者にするのが、俺たちの目的じゃないだろう」

「そうだけど、他に手がないのよ」

千晶がガタンと派手な音を立てて椅子に座った。

足を組んで、指先で黒光りするテーブルをコツコツと叩く。

静寂の中、その小さな音だけが時の流れを知らせていた。



やがて省吾が、あの…、と口を開いた。

「あの…自分、中西のこと教えてくれたサツのケータイ知ってるんで聞いてみましょうか…」



「……!」

「…そういうことは、早く言え!」



崇文が省吾の頭に拳を振り下ろした。

静かな部屋に、ゴツン、という鈍い音と、

「いってぇ~!」

という省吾の悲鳴が響き、その傍らでは千晶が頭を抱えてため息をついていた。















< 168 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop